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島田直明
弱気になったとき「カベ」が生まれる
逆転の発想で逆境を乗り切れ!


中村 伸一さん 株式会社エクスプローラ「地球探検隊」(東京)
 
 幼い頃から「大人になったら人の役にたつ仕事がしたい」という夢を持ちながら、実際には何をどうすればいいのかわからないまま、やんちゃばかりしていたという。若さに任せて暴走もした。そんなとき、話をすることもできなくなるほどの悲しみに遭遇し、自分の存在意義すら見失いそうになり、何もかも投げ出し旅にでた。そして、旅先でかけられた言葉が、中村隊長の大きな転機になったのだ。
  遠い異国で偶然再会したのは、以前自分が旅行の手配をしてあげたお客さんだった。その人から「ありがとう。あなたのおかげで素敵な旅行ができましたよ」という言葉を聞いたとき、忘れていた夢心が再び動きだした。自分も誰かの役にたち、その人から感謝してもらえたという事実、その喜びが次のステップへとつながった。
  帰国後に旅行代理店に勤めたが、そこでは給与支払は滞る、運営を任された事務所に地回りの暴力団はやってくる、人手は足りない、休めない、頼まれていたチケットが入手できずクレームの嵐など、さまざまな苦難が待ちかまえていた。

「私の場合は、開業前にひととおりの『カベ』という『カベ』にぶつかりまくったんですよ。もうダメかもしれない、と何度思ったことか…。その度に、お客さんの言葉を支えにして、負けるもんか!と歯を食いしばって頑張れたんです。」

  給与がもらえなくても自分ひとりだったらなんとかやっていけると思いながら仕事を続けていたが、2年がかりでやっと口説き落とした女性と結婚し、本気で守りたいものができたことから心機一転。奥さんにも背中を押され、独立開業の道を選んだ。
  幸い「顧客は全部持って行っていいよ」という前勤務先の社長の好意で、それまで苦労して開拓した顧客は全て受け継いで独立することができた。
  はじめは多国籍冒険ツアーの代売を主業務としていたが、顧客層が学生から、社会人・フリーターへとシフトしていった関係で、長期ツアーの手配だけでは成り立たなくなっていた。そこで比較的短期だが、さまざまな国の人と一緒に旅をするツアー主催をしている会社と提携し、貸切ツアーを実施。時勢を読み、ターゲットを見直し、企画を練り直した短期のツアー「大人の修学旅行」を売り出した。これは徐々に人気商品になっていった。
  着眼の面白さは雑誌でも紹介され、自費出版した情報誌の効果もあり、対応が追いつかないほどの問い合わせや申込みが殺到。このまま順調にいくと思った矢先、最大のカベが立ちはだかった。
  2001年9月11日。米国同時多発テロ。それに続くイラク戦、SARS、そして鳥インフルエンザ…。旅行代行業は平和産業なので、世情不安や治安の悪化など外的要因による海外旅行者減少に歯止めはかけられない。身内の反対に加え、ほとんどの企業が渡航禁止令を出したことも影響し、新規の申込みがピタリと止まった。大手代理店は格安商品を企画し、顧客獲得のため一斉にダンピング競争がはじまった。同じ土俵で戦ったところで、資金力で勝てるわけがない。そこで中村隊長が思いついたのはメールマガジンという独自媒体を使って「他社とまったく逆の発想で動く」ということだ。顧客に対して「もっと安くしますからいきませんか」と懇願するのではなく、「こんなときだからこそ、行く意味があるのではないでしょうか」と鼓舞していったのだ。

「その時期、その場所に“あえて渡航する”ことの意義や目的を持たせたんです。お仕着せでなく、ひとりひとりが自分の意志で動き出すことで現実は変わっていく。行動することで評価されたり支持されたり、そうやって次のステップが見えてくる。そんなことをメールで問いかけていくうちに、旅オタクではなく、普通の人を集客できたことが成功の秘訣だと思います」

 危機を乗り切る最大のポイントは『他人のせいにしない』『どんなときも楽しむ』『自分を好きでいる』この3つ。

「危機やトラブルはチャンスと捉えるんです。不満の矛先は外に向けるのではなく自分に向けること。経営難を不景気のせいやスタッフのせいにしない。トップはマクロ経済を語るべからず。自分なりの価値基準をしっかりと持つことが大切です。自分は何のために起業したのか? を常に自問自答し、初心を忘れないようにする。私の場合『顧客を喜ばすことが自分の喜び』この軸だけは絶対に揺るぎない。だから、顧客にとって一番悲しいことは何なのか? と考えたとき、それは地球探検隊がなくなることだと」

だから中村隊長は地球探検隊継続に全力を注げるのだ。

「起業するためには、自分のなかにはっきりとした目的や志が必要。『自分は何をしているときが一番楽しいのか』を知っておくことが大切なんです。これがわかってないと継続できない。つまり楽しくないと続かないんです」

という中村隊長。

  地球探検隊のオフィスには、そんな旅の楽しい思い出を綴った体験者のファイルがズラリと並ぶ。顧客に正面から向き合い、楽しいことを考えて、自らがどんどん動き出す中村隊長の前には「カベ」なんかそびえるひまはないような気がした。(取材・文 ささきなおこ)
プロフィール
   

中村 伸一(なかむら しんいち)「地球探検隊」隊長
[社名]株式会社エクスプローラ「地球探検隊」(東京)
[業種]旅行代理業
[URL]http://www.expl.co.jp/

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